3月の壁飾りは「鶴の恩返し」です。

むかしむかし、貧しいけれど心の優しいおじいさんとおばあさんがいました。
ある寒い冬の日、おじいさんは町へたきぎを売りに出かけ、その途中の田んぼの中に一羽のツルがワナにかかって
もがいていました。おじいさんは可愛そうに思って、ツルを助け逃がしてやりました。
その夜、日暮れから降り始めた雪がコンコンと積もって大雪になりました。
トントン、トントン
表の戸をたたく音がします。
おばあさんが戸を開けると、頭から雪をかぶった娘が立っていました。
おばあさんは驚いて娘を中に入れて泊めてやりました。次の日も、その次の日も大雪で戸を開けることもできません。
娘はご飯を作ったり、お掃除をしたり、良く働き良く気の付く優しい人でした。
娘は「身寄りのない娘です。どうぞ、この家においてください」
おじいさんとおばあさんは喜んで、それから三人で貧しいけれど、楽しい毎日を過ごしました。
さて、ある日のこと。
娘が機をおりたいから、糸を買ってくださいと頼みました。
糸を買ってくると、機の回りにびょうぶをたて「機をおりあげるまで、決してのぞかないでください」と言って、機をおり始めました。
キコバタン、キコバタン。
三日がたち、ようやく機をおり終えた娘は、「おじいさま、おばあさま、この綾錦をうりに行って、
帰りにまた糸を買って来て下さい」と、空の雲のように軽い、美しいおり物をふたりに見せました。
町へ売りに行くと、殿さまが高い値段で買ってくれました。糸を買って帰り娘に渡すとまた、機をおり始めました。
「ねえ、おじいさん。あの娘はいったいどうやってあんな見事な布をおるのでしょうね。・・・ほんの少しのぞいてみましょう」
おばあさんがびょうぶのすきまからのぞいてみると、やせこけた一羽のツルが自分の羽毛を引き抜いては糸にはさんで機をおっていたのです。
キコンバタン、キコンバタン・・・
前よりもやせ細った娘が布をかかえて出てきました。
「おじいさま、おばあさま。もう隠していても仕方ありませんね。わたしはいつか助けられたツルでございます。ご恩をお返ししたいと思って娘になってまいりました。けれど、もうお別れでございます。どうぞいつまでもおたっしゃでいてくださいませ」
たちまち一羽のツルになって空へ舞いあがりました。
「ツルや。いや、娘や。どうかお前もたっしゃでいておくれ。・・・今までありがとう」
おじいさんとおばあさんはいつまでもいつまでもツルを見送りました。
ぞれからのち、二人は娘のおった布を売ったお金でしあわせに暮らしました。
おしまい。
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